本日のベッピン

10億円を捨てた男の仕事術
松本 大 (著)

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金融界で注目のマネックス証券CEO松本大による書下ろしの1冊。タイトルは、著者がかつて同社の立ち上げのために、株式上場を半年後に控えたゴールドマン・サックスの共同経営者の座を自ら辞し、数十億円といわれる上場プレミアム報酬を捨てることになった一件を指したものだ。

「インセイン(正気じゃない!)」と同僚に言われながらも著者が決断したのは、「クレディビリティ(信義、信頼、信用)」のためだったという。当時からオンライン証券会社設立を決意しており、もしそのままお金のために会社に残って不本意な仕事を続けたとして、「そんなことをしている人間が、果たして金融人としてのクレディビリティを維持できるのか、人がついて来てくれるのか」と考えたという。このエピソードから著者は、ビジネス社会で生きていくためにはクレディビリティが何より大切なこと、今日やることを明日やっても価値は割り引かれること、「時間軸」や「時価会計」の発想で行動すべきことなどを説いている。莫大な報酬を自ら断っているだけに説得力は抜群だ。

著者の「仕事術」は、こうしたビジネスパーソンとしての価値や行動規範といった、だれもが迷いがちなテーマに深く切り込んでいる。「自己肯定」「矜持」「倫理観」などの、悩む心を支えるアドバイスも貴重である。

一方、実践的な面ではコミュニケーションや情報収集、自分を高める方法なども幅広く紹介している。平易な表現ながら、「期待値」「エクイティ」「アセット」などの著者ならではの視点が楽しませてくれる。(棚上 勉)


10億円を捨てた男の仕事術

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